
おかげさまで大暑の日に開店10周年を迎えることができました。これまで支えていただいた方々へ心よりお礼申し上げます。
そこで十年間集めた物というほど仰々しいものではないですが、こつこつと集めてきた道具の展示会を行うつもりでした。
無期限延期となりましたが、またいつかそんな機会を待ちたく、今は疫病退散を思い、できることを続けて参ります。11年目もどうぞよろしくお願いいたします。

この朽ちかけた梯子は、展示会に出品予定だったもの。
半円状の二本の樹に削り出した木棒を差し込んだだけの南フランスの簡素な梯子。
今にも崩れそうなのに、これにホントに昇って果物などを収穫していたの?
と、不思議に思えてきますが、おそらく身近にある材料で、家庭で日常用としてこしらえたもの。
木は朽ちて揺らぎつつ上に昇る姿が、まるで祈祷用の祭具か何かに見えてしまうのは、僕の思うフランス的な木工の面白みです。

実用的な木工品がもろくて破損しやすいのは、理想ではありませんが、どこか許されてしまうような軟らかさも潜んでいます。
家具や木工として優れていないからと、切り捨てず、頭をひねって使い途や在り方を探してみるのも道具屋の仕事。
かつてブランクーシがアトリエで葡萄酒圧搾機の木棒にインスピレーションを得ていたように、用途に健全でいて、且つその土地ならではの風土に育まれた木の道具や大きな農具には、彫刻家の作品と同質に、こちらの心に響く力があるように思えてきます。
とりわけ梯子は神聖であらゆるものの通る道、繋がりと往来のイメージには好感があります。
梯子を昇った先にyesと書かれていたら。
現在はどん詰まりではなく、肯定するように先へ繋ぐ仕事ができればと願っています。

梯子 フランス19世紀 192cm
ceiling painting.
war is over.